つちややすちか ぶかんぜんじずつば
土屋安親 豊干禅師図鐔
銘 安親
7.8×7.2×0.5㎝
江戸時代後期 重要文化財
真鍮(銅に亜鉛をまぜた合金)でつくった鐔に、松のたもとで虎とねむる豊干禅師のすがたを浮彫にします。
豊干は中国の天台山国清寺に住み、虎を飼いならしたとされる唐代の伝説的な僧です。
同寺にいた風狂の僧、寒山・拾得とのエピソードは森鴎外の短編『寒山拾得』などでご存知の方もおられるでしょう。
豊干、寒山、拾得に虎を加えた四者がねむる「四睡図」は、悟りの境地を示す禅の画題として好まれました。
本作も寒山・拾得をあらわした鐔とセットであったのかもしれません。
豊干の顔はまぶたや口まわりを繊細に彫って凹凸をつけ、髪やひげをこまかく刻みます。
まるで目の前で写生したような生き生きとした表現で、悟りに達した高僧のおだやかな内面が伝わってくるようです。
人間のようにもみえる虎の寝顔はかわいらしく、禅師の徳に感化されて自らの生を楽しんでいることがうかがえます。
作者の土屋安親(1670~1744)は出羽(山形県)庄内の出身で、江戸へ出て奈良辰政に学び、奈良利寿、杉浦乗意とともに奈良派の三作のひとりに数えられる名工です。
『装剣奇賞』(1781年刊)に「利寿に似て同じからざる曲者」「奇をこのみて妙に詣れり」と評された個性的な作風で知られ、本品を含めて6点が重要文化財に指定されるなど高い評価を得ています。
(川見)