ちょうちょうそうかくもんきょう
蝶々双鶴文鏡
面径23.1㎝
室町時代(15世紀)
亀形につくった鈕の上方に2羽の鶴が向かい合って飛びます。
鏡背一面に散らす21羽の蝶を見ると、羽を広げたもののなかに、羽を立てた蝶がまじっています。
羽の斑紋もそれぞれ少しずつ異なっており、スタンプのような型を用いるのではなく、一羽一羽を鋳型の材に彫り描いたことがわかります。
羽の全体を少し盛り上げ、輪郭や斑紋、触角など部分により道具を使い分けて、線の種類や彫りの深さを変えることで、立体的で変化に富む表現となっています。
繊細で鋭い片切彫りの線には伸びがあり、当時一流の鏡師による卓越した技術を見て取ることのできる逸品です。
蛍光エックス線分析による金属組成調査をおこなったところ、銅(Cu)約74%に対して、錫(Sn)約12%、鉛(Pb)約5%という結果が出ました。
錫20~25%を含む中国の漢鏡・唐鏡に比べると低い割合ですが、中世の和鏡としては質の良い青銅といえます。
全体にやや黒味がかった銀白色にも見えますが、擦れやすい箇所に露わになった地がねはやや黄色っぽく、全面にほどこした鍍錫(錫めっき)が長い年月の間に剥げた様態とわかります。
唐王朝の影響下にあった奈良時代には花鳥図の一部としてほかの昆虫とともにあしらわれることが多かった蝶ですが、平安時代以降、鏡や蒔絵などの工芸意匠に主役として用いられるようになりました。
なかでも本鏡は蝶の配置のバランスもほどよく上品で、しっかりとしたつくりの大型鏡であることから、しかるべき身分の女性のために特別にあつらえたものと推測されます。
(川見)