とうてつもんへんていか
饕餮紋平底斝
通高32.5㎝、口径18.5㎝
殷代後期
二つの柱と把手、正面をにらむ獣面が特徴的な三足の青銅器です。
甲骨文字に二つの柱をもつ容れ物に「斗(ひしゃく)」を入れた象形があり、宋代の『博古図』以来、このような器を「斝」と呼びつづけていますが、本当にこれが「斝」に該当するかはわかりません。
器の形から、お酒を温め、柄杓(ひしゃく)でくんだと推測されますが、当時の名称が不明な以上、用途も知りえません。殷代の主要な礼器のひとつであったことは確かです。
胴体の上半分(頸部)が口縁に向かってラッパ状に広がり、2ヵ所にキノコ形の柱がつきます。側面には大きな把手がつきます。下半分(腹部)はスカート状に広がり、平たい底に三足がつきます。三足は下から見ると正三角形になるように配置されています。足自体も断面三角形です。
頸部と腹部に施された獣面はいわゆる饕餮(とうてつ)紋です。やはり宋代の人が『呂氏春秋』という戦国時代の文献を引っぱって名づけました。
「饕餮」は欲張りで大喰いな怪物ですが、この紋様の正体は太陽神に由来する天上の最高神で、天候や四季の運行を司ることから、祭祀の対象として飲食器に飾られたと言われています。強調された目は悪者が近づくのを拒んでいるようです。
そっくりな器が河南省安陽の殷墟小屯宮殿区のお墓から出土しているため、この器も殷王朝の都で使用されたと考えられます。紀元前13世紀の作であり、当研究所の蔵品のなかでも最古の名品です。
(石谷)