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第85回展観 
神々たちの宴
−江戸時代の信仰と美術−

会 期 | 2001年4月21日(土)~5月20日(日)

展覧会概要

 古来より人間は自然に神性を見出し、山や川などはいうまでもなく、動物や植物までも神として祀(まつ)ってきた。時に感謝し、あるいは畏怖(いふ)しながらもそれらと共存し、実に多くの恩恵を受けてきたのである。このような態度は、自然環境が濃厚に反映する稲作農耕を生活の基盤とし、それが文化の根底となってきた日本において特に顕著であるといえよう。それゆえ、人力の及ばない太陽や水、風などあらゆる自然の事象を神として祀り、誠意と真心のある祈りが捧げられてきた。また、農耕は一人で成しうるものでなく、家族や地域社会という単位のもと、複数の人々が協力し合う必要がある。そこで共同体の安定が願われ、その象徴としての神が祀られた。このような農耕に関係する自然神や、地域共同体の鎮守としての氏神を祀った場が、やがて神社という形態をとり、多くの参拝者を集めるようになった。最高位の祭祀者と0して、自然の恵みを仰ぎ敬うという農耕に関する祭りを執行し、また、祖先に対して感謝し、天下万民が平和であるように祈ることが歴代天皇の主要な任務であるのは、まさに日本文化を如実に象徴する事例といえよう。
 現代でも神社仏閣に参詣する人は多く、今年の正月三が日の初詣客は日本総人口の7割弱に当たる8875万人を記録し、警察庁による調査が始まった昭和四十九年以降では過去最高であったという。このような現象を外国人が目のあたりにしたならば、日本人は何と神仏に対して信心深いのかと感ずるだろう。しかし、それが宗教的行為に当たると意識している人は少ないようで、何らかの宗教を信じているかという質問に、はいと答える日本人は3割強に過ぎず、神道と答えた人は1割にも満たないという報告がある。これは神道が日本人の日常的な願いの中から自然発生的に生まれたものであり、生活様式と密接な関わりを持つため、宗教だと自覚できないほど我々に浸透しているということを示している。儒教や仏教が重視された時代を経てもその精神は捨てられず、現代の我々の心にもしっかりと根ざしているのである。
 さて本展観では、日本古来の神々が多様に表現された江戸時代の美術工芸品を、7つのテーマに分けて紹介している。ここまで日本人の神に対する伝統的な態度を説明してきたのは、それを踏まえて鑑賞すれば、今回展示した作品が我々と切り離された過去の遺物ではなく、より身近で親しみのある存在となると考えたからである。また、中にはインド発祥の仏教や中国の道教の神であったのが、日本の文化に取り込まれ、親しまれているものもある。これは、新たなものを受け入れる際に古いものを排除するのではなく、取捨選択して伝統文化と矛盾のないように形態を変容させるという、日本文化の寛容性を示す好例である。このように美術品に込められたそれぞれの信仰を眺めることによって、先人が築いてきた日本文化の諸様相を顧(かえり)みることが本展観の主眼となっている。加えて、この世は意のままになると考える現代人の傲慢さに対する戒めとして、人間を超越するところにものをもっと意識する謙虚さが大切だと説く過去からのメッセージを少しでも拾い上げることができれば幸いである。

展示目録(パンフレット)

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