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高士弾琴文鏡

面径22.4cm 中唐(8世紀後半)
 
ゆるい弧状の花弁を8枚合わせた八花鏡と呼ばれる形状の鏡です。鏡背の左右に竹林で琴を奏でる人物とその音色にひかれて奇岩にとまる鳳凰をあらわし、下の池から中心へと蓮がのび、葉の上に亀形の鈕をかたどります。古来、千年生きた霊亀は蓮の葉に乗るといい、神仙世界を示した図像と考えられます。
 
琴の名手といえば春秋時代の伯牙が知られ、親密な仲を意味する「断琴の交わり」という故事にもなっています。後漢の神獣鏡では銘文に「百牙」とあることや、伯牙のよき聴き手であった鍾子期とともにあらわされているため人物を特定できます。しかし、唐鏡では鍾子期を欠くことや、弾き手が複数人配された類例もあるため、奏者をどう位置付けるかは意見が分かれています。
 
本品の紋様の周りには「鳳凰雙鏡南金装 陰陽各為配 日月恒相會 白玉芙蓉匣 翠羽瓊瑤帯 同心人心相親 照心照膽保千春」と篆書風の銘文がめぐり、陰陽の調和や男女の仲をとりもつ内容をうたっています。秦にはじまる書体を使う復古の意識がみえることから、本品の図像も後漢鏡の伯牙や六朝に流行した竹林の七賢などをあらわした樹下人物図を手本にしたのかもしれません。
 
12時の位置からはじまる銘文は最初と最後は字間がつまり、3時から9時にかけて字間を広くとっています。また、筆画が二重の文字が多く見うけられます。これらの事実から、鏡の製作者が文字の配置に無頓着であったことや、文字原型などを使用していた可能性が推測できます。
 
同じ図像の唐鏡は多く現存していますが、なかでも本品は鏡体が薄く鋳上りがシャープな優品といえます。
(馬渕)
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