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こじんきししもんきょう
胡人騎獅子文鏡

面径28.8cm 盛唐(8世紀前半)
 
先のとがった花弁を8枚合わせた八稜鏡と呼ばれる形状の鏡で、鏡背の左右には縮毛で上半身裸の二人が、それぞれ横笛と鼓を持って獅子にまたがる様子をあらわしています。
その姿や先のすぼむ半ズボンは、南朝の皇帝に朝貢する人々を写した『職貢図』の「狼牙修(ランスカ)」(マレー半島に存在した国)の使節や、唐墓出土の黒人俑と報告されるものと共通し、東南アジアの人々をモデルにしたと考えられます。
 
上下には宝相華文と呼ばれる蓮・葡萄・唐草などの特徴を合わせた想像上の花を配しており、これは再生・多産などを願った吉祥文です。外区には結び目のある紐をくわえた鳥と宝相華文を交互に置き、こちらも慶事を示すと考えられます。
獅子も脚で雲をつかむことから神仙世界の存在であり、珍宝をもたらす異国人が富の象徴として表現されているのでしょう。

国力の大きかった盛唐には様々な文様の鏡が作られますが、異民族を主題とした鏡はほとんどありません。胡人といえばシルクロードを介した長距離交易で活躍した中央アジアの「ソグド人」が知られ、こうした西域との交流に目が奪われがちですが、本品は異なる視点を提供してくれます。
 
なお、つなぎ合わせた2つの破片は、大きく銹の状態が異なっています。1片(右上)は白銀色の金属光沢がはっきりとみえますが、もう1片(左下)は緑・青・黒色の銹に覆われています。これは、棺に納められていた状況の差を反映していると考えられ、銹がひどい破片の鏡面には蛹の痕跡が多数あり、遺体の近くにあったと推測できます。
(馬渕)
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