はやしまたしち かすみざくらすかしつば
林又七 霞桜透鐔
金銘 又七
7.8×7.8㎝ 厚さ0.4㎝
江戸時代(17世紀)
菊花形に作った鉄地の鐔で、四方に小さく猪の目(ハート形)透かしをほどこし、透かし彫りによる五つの桜花を全体に散らします。
桜の花は、まず先端が蕨手形に切り込んだ花びらの形にくり抜き、内側にひとまわり小さな桜花を透かし残す二重構造とします。
内側の花びらにはそれぞれ菱形の小孔をあけ、下地とつながる先端が切り込むように刻みをつけます。
また、なかほどには同心円状に金の破線をめぐらせて彩りを加えます。
これは彫り込んだ溝に撚り合わせた金の針金を嵌め込み、何らかの接着剤ですき間を固めているようです。
金の縄目と切羽台の周縁を境界として桜花が見え隠れする図案となっており、断続的にめぐらせた同心円状の糸透かしと相まって、桜が霞む春の情景をあらわしています。
作者の林又七(1605~91)は細川忠興の三男忠利(1586~1641)が寛永九年(1632)に肥後国熊本藩に移封された際に十人扶持で召し抱えられ、正保四年(1647)以降は飽田郡久末村(熊本市西区)を拠点に製作にあたったといいます。
本作には成形の痕跡とみられる木目のような鍛え肌があり、艶のある茶褐色とともに又七の特徴とされています。
早期の肥後鐔に有銘の作はほとんどなく、金象嵌銘がいつ、どのような理由で入れられたものかは検討の余地があるでしょう。
(川見)