しばこうかん
司馬江漢 水鳥図
67.5 × 127.6cm
江戸時代後期 絹本着色
クチバシの特徴から、白鳥は個体数の少ないオオハクチョウとわかります。茶色の頭はヒドリガモのオス、黄色いクチバシに黒っぽい頭の2羽はマガモのオス、そして茶色の羽毛を有するのはマガモのメスです。当時は大名を中心に博物学が流行した時代であり、このように写実性の高い作品が求められたとみられます。
それぞれの水鳥には輪郭線を用いず、色の塗り分けのみで描いており、18世紀後半の日本絵画としてはやや特異な表現方法と言えます。
さらに使用される白色絵具を科学分析した結果、胡粉のカルシウム(Ca)でなく、鉛(Pb)が検出されました。これは中国やオランダで用いられる鉛白(シルバ ー ホワイ ト)とみられ、 ここからも表現上の特異性が浮かび上がってきます。
司馬江漢(1747 1818)は、江戸町人として染物屋の上絵描きに始まり、狩野派や最新の中国絵画、さらには浮世絵や洋風画などあらゆる絵画形式を学びました。蘭学者としても知られ、前野良沢と杉田玄白の門人であった大槻玄沢の協力により、日本で初の腐食銅版画製作に成功しています。
画は物事を知るためにあり、目でみたように描いたものでなければ意味がないと考えた江漢は、その最善の方法こそ油絵による洋風画だととらえました。
30代の作とみられる本図はいまだ東洋絵画の手法によってはいますが、立体感を意識して陰影をほどこしつつ羽毛を緻密に再現し、目には西洋画で用いられた光の反射を描き込んでいます。洋風画に至るまでの試行錯誤を色濃く反映した作品、との位置付けが可能でしょう。
(杉本欣久 東北大学)